ママの子宮全摘手術・その判断基準は?

第2回 子宮全摘にまつわるウソホント
”子宮体がん”の早期発見のためには、不正出血などの症状があれば放置せず、婦人科を訪れること。だが、個々の子宮の状況によって検査のスパンはまちまちで、“子宮内膜増殖症(子宮内膜が過度に増殖した状態)”が見られる患者は、定期的な検査が必要となり、年に何回も検査の痛みと闘うことも。「もう子どもは望まないし、毎回痛い検査をするくらいなら、いっそ子宮を全摘してしまおうか…」そうネガティブになるママもいるのでは? そこで、「みずほ女性クリニック」の院長・津田浩史先生を取材。“子宮全摘”を決める判断基準を聞いた。

●子宮内膜異型増殖症は、体がんに進展する可能性が高い

そもそも、子宮全摘にいたる可能性がある“子宮内膜増殖症”にはどんな種類があるのか?

【子宮内膜増殖症】
子宮内膜細胞に異型なし:単純型子宮内膜増殖症(構造にも異型なし)と複雑型子宮内膜増殖症(構造に異型あり)があり、がん化率はそれぞれ1、3%。

子宮内膜細胞に異型あり:単純型子宮内膜異型増殖症(構造には異型なし)、複雑型子宮内膜異型増殖症(構造にも異型あり)が存在し、それぞれ8~30%が子宮体がんに進展すると言われている。

※前者を内膜増殖症、後者を異型内膜増殖症と呼ぶことにします。

「これらの病態は、何らかの原因でエストロゲンが優位になり、子宮内膜が異常に分厚く増殖した状態で、諸症状を引き起こすことも多いです。異型内膜増殖症は、”がんの0期”とも考えられ、将来的にがんになる可能性が出てくるので、妊娠を望まない場合は、医師の立場から全摘の手術を勧めることになります。異型内膜増殖症の場合は、すでにがんを併発しているケースも多いのです。一方、内膜増殖症でも、少なからずがんに移行する可能性があるので、定期的に検査します」(津田氏 以下同)

通常は、異型内膜増殖症と言われたとき、摘出手術を考えればよいのだそう。内膜増殖症の場合は、手術を考えなくても良いが、やはり定期的な検査は避けられない。これを苦にして、内膜増殖症でも、自ら“子宮全摘”を願い出る患者はいるのだろうか?

「少数派ですね。なぜかというと、内膜増殖症の場合、大部分は自然治癒すると言われているので、基本的には経過観察となります。周期的な黄体ホルモン療法でエストロゲンを抑えるなどの治療を行うこともできます。まずは納得いくまで、今後の治療について医師に聞き、納得がいかないようであれば、積極的にセカンドオピニオンを申し出るべきです」

ママが子宮全摘を決める判断基準は?

近年、女優アンジェリーナ・ジョリーが、乳がんや卵巣がんの予防のため、手術したことも話題に…。子宮体がんでも、彼女のように、遺伝子検査で早々と子宮摘出を決意する患者はいないのだろうか?

「子宮体がんになる理由の一端として、もちろん家系や遺伝的要素は考えられます。近親者(本人にとって両親、兄弟、姉妹、または子どものこと)に子宮体がんや大腸がんなどを患った人がいる場合は、”リンチ症候群”といって体がんリスクを有する場合もあり要注意です。ただ、“遺伝的要素があるので、予防の意味で子宮全摘して下さい”と患者さんが希望されるケースは少ないですね。遺伝子検査は様々な問題をはらんでいて、結果次第では結婚や就職の差別につながったりすることもあります。誰にでも勧められることではないので、私は安易には勧めません。ただ、患者さんから相談があった場合は、遺伝外来のある施設を紹介することもあります」

女性であるならば、しっかりと認識しておかなければならない“子宮”についての知識。“今後子どもを望むか望まないのか…”患者の置かれている状態によって、先々の治療や手術の時期など、医師によって判断がまちまちであることもまた事実。独りよがりにならず、診断に矛盾が残るのであれば、セカンドオピニオンを受けることも大切だ。

(取材・文/吉富慶子)

お話をうかがった人

津田浩史
津田浩史
みずほ女性クリニック・院長
平成25年3月に慶應義塾大学病院産婦人科を退職し、同年5月より国分寺で開業。西洋医学と東洋医学を併用し、予防医学的観点からがんなどの早期発見に努めている。「痛みの少ない診察」を目指して診察器具にも配慮。子宮体がん検診に、超音波断層法を導入することで痛みの少ない検診法を提案している。
平成25年3月に慶應義塾大学病院産婦人科を退職し、同年5月より国分寺で開業。西洋医学と東洋医学を併用し、予防医学的観点からがんなどの早期発見に努めている。「痛みの少ない診察」を目指して診察器具にも配慮。子宮体がん検診に、超音波断層法を導入することで痛みの少ない検診法を提案している。