麻婆豆腐×イチゴジャム!まさかの相性

第4118回 はじめてライフ
人間の食に対する探究心はあくなきもの。近年では、美味しいスイーツ同士を掛け合わせたハイブリットスイーツなるものが注目を集めているが、味の想像ができて意外性にはやや欠ける。新たな美味しい発見のためには、多少の冒険・意外性も必要なはず! なんて思って調べたところ、世の中にはなかなか面白い食べ合わせを提案している人がいるようだ。今回はそういった提案の中から、「麻婆豆腐にイチゴジャムを入れると美味しい」との情報をピックアップし、実際に試してみた。果たしてそのお味は……?

「麻婆豆腐にイチゴジャムを入れると美味しい」はホント?

某テレビ番組で紹介され、SNSでも一時期話題になったのが、「麻婆豆腐×イチゴジャム」の組み合わせ。正直、酢豚にパイナップル、ポテトサラダにリンゴなどをあまり好まない私である、「麻婆豆腐にイチゴジャム」と聞いただけでは、食指が動くわけもない。しかし、市販の素で作った麻婆豆腐が、さながら高級中華店のソレになるといえば、話は別だ。でもさ、それが本当ならさ、真似する店が出てきてもおかしくないのにさ……なんて独りごちながら、とりあえず市販の素で麻婆豆腐を作ってみた。さて、イチゴジャムを投入し、よく混ぜて……。

ご飯茶碗1杯程度の麻婆豆腐に、ティースプーン3分の1程度のイチゴジャムを投入。

「あまーーーーーーーーーーーい!!!!!!!」 
味の説明を放棄するワケではないが、麻婆豆腐にイチゴジャムを混ぜた、想像通りの味としか言いようがない。ウワサを信じてミラクルな味の変化が起きていることを期待していただけに、このあまったるいだけの麻婆豆腐にショックを隠し切れない。でも待てよ、これは食べ進めるごとにクセになる類の味なのかも? ひとくち、ふたくち、みくち……。
「あまーーーーーーーーーーーい!!!!!!!」 
やっぱりダメだ、私好みの味ではない。分量が良くないのか調理手順が違うのか、もはや問題を解決して新たに作り直そうという気力も沸かない。鍋の中には、来るべきジャムとのマリアージュに頬を赤く染めた(ように見える)、麻婆豆腐がたくさん控えているというのに……。えい、この際だ、残った麻婆豆腐には、違う味のジャムを合わせちまえ。イチゴジャムがダメなら、リンゴジャムを入れればいいじゃない。

リンゴジャム、オレンジマーマレード、キウイジャムでも試してみた

口いっぱいに、嫌な甘さが残ったままではあるが、気を取り直して残った麻婆豆腐にリンゴジャムを投入。リンゴといえば、ポテトサラダや冷麺などでもおなじみ、「食材としての市民権を得た果物」の代表格だ。リンゴとハチミツを入れたカレーだってあるし、麻婆豆腐に入れたとて、なんら問題はなかろう。

イチゴジャムでの教訓をいかし、甘さ控えめのリンゴジャムをセレクト。

なるほど、(リンゴだけに)ナシではない。強烈なあのイチゴジャムの後というのもあるが、主張が控えめなところが良い。何かもうひとつ工夫すれば、料理として成立しそうな味、といったところ。しかし、“だとして何だ”、わざわざ入れるほどの味ではない。

続いてオレンジマーマレードはどうか。柑橘類は、さまざまな料理に使われている実績があるし、何より麻婆豆腐の本場中国では、みかんの皮が漢方薬の材料として身近な存在。同じ中国に馴染み深いモノ同士、相性は悪くないはずだ。これはちょっと期待できるぞ。

柑橘類は肉料理とも好相性。麻婆豆腐との相性はどうだろう?

はいはいはいはい! 好きか嫌いかはさておき、これはギリギリ料理として成立している、といって良いレベルでしょう! 麻婆豆腐にオレンジの爽やかな甘みが加わり、オシャレな味といえなくもない。表参道あたりのカフェで「トロピカル麻婆豆腐」として提供されたら、何の疑いもなくオーダーする女子もいるだろう。ま、私は頼みませんけれど。

最後に試すのはキウイフルーツジャム。フランス料理ではキウイをソースとして使うこともあるというが、相手は中華の王道、麻婆豆腐、なんだか嫌な予感しかしないが……。

キウイフルーツのジャム自体、イロモノと言えそうだが……。

嗚呼、やっぱり。せっかくの麻婆豆腐の良さが、キウイフルーツの甘さに邪魔されている。レポートするのもさすがに疲れてきたし、これ以上は、特に何も言うことはない。

ジャムパンに麻婆豆腐を挟だら、意外なことが…!

個人的にはドクロマーク判定を下したイチゴジャムだが、そもそもの「美味しい」との情報を信じて、イチゴジャムパンまで用意していた。アレ(麻婆豆腐×イチゴジャム)をまた食べるのかと思うとゲンナリするが、食べ納めと思って「麻婆豆腐×イチゴジャムパン」にチャレンジすることに。人間、時には思い切りが大切だ。

ジャムパンを半分に割って、イチゴジャムの部分にたっぷり麻婆豆腐を入れてみた。

……あれ? ちょっと待て。意外とアリ……だと? 甘い麻婆豆腐を食べ過ぎて味覚がマヒしている可能性も大いにあり得るが、味のベクトルで言えば “甘じょっぱい”、そう、ハマる人はとことんハマるヤツだ。麻婆豆腐の辛旨さとイチゴジャムの芳醇な甘みが、それぞれ口の中に広がり、パンの素朴な味わいが全体をうまくまとめている。あれ、もしかしてこれは流行る、かもしれない?

しかし不思議だ。麻婆豆腐にイチゴジャムを入れただけのときの、あの衝撃的な味との違いは何だ? パンの存在も大きいが、ひとつ考えられるのは、麻婆豆腐とイチゴジャムをしっかり混ぜたかどうかの違い。残念な結果に終わったほうは、麻婆豆腐とイチゴジャムをぐちゃぐちゃに混ぜていたのだ。つまり、麻婆豆腐とイチゴジャムのように味が正反対のようなもの同士は、下手に混ぜ合わせるのではなく、それぞれの個性を尊重した状態でいただくほうが良いということか? 抜群に美味しい食べ合わせを、“マリアージュ”――フランス語で“結婚(あるいは婚約など)”と言うが、なるほど、食べ合わせも結婚生活も、「互いの個性を尊重し合うこと」が、成功の秘訣ということか!?

……なんて、若干のこじつけ感は否めないが、“甘じょっぱい”食べ物が好きなら、「麻婆豆腐×イチゴジャムパン」の絶妙な味わいを、ぜひその舌で確かめていただきたい。個人的には、麻婆豆腐は多めに入れることをおすすめする。

(写真・文 村部春奈)