ルポライターが語る『虐待の抑止に必要なこと』

第3回 ルポライターが語る虐待事件
毎年増え続ける虐待件数。加害者になってしまう親、そして被害者の子どもの双方を救うために、地域や社会で取り組めることはあるのでしょうか?

これまで、国内で発生した悲惨な虐待死事件を追ってきたルポライターの杉山春さんに聞きました。

●メディアで虐待事件を取り上げることの重要性

世代間での虐待の連鎖を断ち切るには、第三者の関わりが欠かせないと杉山さんは指摘します。

「昨今、虐待や子どもへの大人の暴力のニュースは、2000年代やそれ以前に比べて一般の目に触れやすくなったように思います。以前であれば、報道されなかったレベルの状況でも、その詳細がメディアで取り上げられるようになりました。子どもへの暴力に関心が高まっていること自体は良いことだと思っています。それによって、虐待の早期発見にもつながるからです」(杉山さん、以下同)

杉山さんが取材をした虐待事件の中には、通報が遅れたり確かな情報がなかったりしたことから、行政や警察の介入が後手になり、子どもの命が救えなかったケースもあると言います。こうした事態をなくしていくためには、どのようなことが重要になるのでしょうか。

「よその子であっても、その子の育ちに地域全体で関心を持つことが大事だと思っています。幼い子どもは自分で声を挙げられないので、保育園や幼稚園、近所の人が関心を持っていくことは大事ですね。ただし、その親を批判的に見るのは逆効果だと思います。不適切な養育だと思った時に、『今、大変な状況にあるのかな。苦しいのかな』という視点をもつことは大切です。そして、自分自身の周囲にも、不安に感じたことを気軽に相談し合えるような人間関係を育むことが、虐待の抑止力になるはずです」

ルポライターが語る『虐待の抑止に必要なこと』

●“善意ある関心”が苦しむ親子を救う

ただ、多くの人は他人のプライベートには、なかなか踏み込めないと感じてしまうかもしれません。そんなときは、自分がこの子であればどう感じるか、と想像してみると良いと杉山さんは言います。

「今は人と積極的に関わらなくても生きていける社会です。面倒なことに関わりたくないという気持ちはよく分かります。格差も広がってきて、すぐ隣にいる人の困難が見えにくい時代です。困っていることを隠そうと思えば隠せてしまう。それゆえ、この社会では想像力を働かせることがとても大事なことなのではないかと思います。

もし、虐待について少しでも関心があるのであれば、ボランティアなどで困難を抱える人たちと直接ふれあうこともあってもいいかもしれません。まず、知ること親しくなること。それが、大きな一歩につながると思います」

テレビなどのメディアを通して虐待を知った気になるのではなく、いかに虐待を身近な問題として捉えられるかが大事なのかもしれません。一人ひとりが問題意識を持ち、行動に移すことで、救われる命もあるはずです。

(構成・文:末吉陽子/やじろべえ)

お話をお聞きした人

杉山春
1958年生まれ。雑誌記者を経てフリーのルポライターとして活躍。著書に、小学館ノンフィクション大賞を受賞した『ネグレクト―育児放棄 真奈ちゃんはなぜ死んだか』(小学館)のほか、2010年の夏に大阪市のマンションで二人の子供が餓死した事件を取り上げた『ルポ虐待――大阪二児置き去り死事件』(ちくま新書)、『移民環流―南米から帰ってくる日系人たち』『満州女塾』(新潮社)『家族幻想「ひきこもりから問う」』(ちくま新書)など多数。
1958年生まれ。雑誌記者を経てフリーのルポライターとして活躍。著書に、小学館ノンフィクション大賞を受賞した『ネグレクト―育児放棄 真奈ちゃんはなぜ死んだか』(小学館)のほか、2010年の夏に大阪市のマンションで二人の子供が餓死した事件を取り上げた『ルポ虐待――大阪二児置き去り死事件』(ちくま新書)、『移民環流―南米から帰ってくる日系人たち』『満州女塾』(新潮社)『家族幻想「ひきこもりから問う」』(ちくま新書)など多数。