都市の新たな可能性を求め最先端の都市計画や都市像を紹介

ビャルケ・インゲルス・グループ《オーシャニクス・シティ》2019年
会場は5つのセクションで構成され、美術の領域を超えたさまざまなプロジェクトや作品を100点以上紹介する。
「セクション1 都市の新たな可能性」では、最先端の都市計画をはじめ、アーティストや建築家が描くユニークな都市像を写真や映像、模型などで展示。人類が築く新しい都市について考える。
この背景にあるのは、1960年代に日本の若手建築家が構想した“メタボリズム”という建築運動(理論)。メタボリズムは「新陳代謝」の意味で、生命が成長や変化を繰り返すように、建築や都市も有機的にデザインされるべきだという考え方のこと。
当時の技術では実現できなかったけれど、技術の発達によって、今では環境に負荷をかけずに持続可能なメタボリズム都市が実現しつつあるとか。この時からすると、まさに今が未来というわけ。
技術の力で新しいメタボリズム(新陳代謝)建築が可能に

WOHA《オアシア・ホテル・ダウンタウン》2016年 撮影:Patrick Bingham-Hall
現在では、環境に優しい植物由来などの有機的な建材が開発されたり、3Dプリンターやドローン技術、ロボット工学のような先端テクノロジーを駆使した新しい工法が使われたり、建築の世界にもいろいろな変化が起きている。
「セクション2 ネオ・メタボリズム建築へ」で紹介するのは、そんな建築の最新の動向について。新しい技術によって実現する、自然との共生や柔軟に変化する建築などは、新しいメタボリズム=ネオ・メタボリズムの可能性を示していると言えそう。
写真は、シンガポールの中心部に建つ緑に覆われた《オアシア・ホテル・ダウンタウン》。外壁の植物が成長するにつれてホテルの姿も変化するので、自然と建築をどちらも楽しめる。
ライフスタイルも変化!衣食住に影響を与えるテクノロジー

エイミー・カール 《インターナル・コレクション》 2016-2017年
技術の革新は、衣・食・住といった私たちのライフスタイルにも確実に影響をもたらしている。「セクション3 ライフスタイルとデザインの革新」では、最先端のテクノロジーや斬新なコンセプトから誕生するデザインやプロダクトに着目。
コンピューターによるモデリングや3Dプリンターなどの登場で、デザインの歴史は大きく変わってきた。写真は、バイオアーティストとして活動するエイミー・カール氏の作品《インターナル・コレクション》。こちらは、人間の神経系や肺といった体内(インターナル:内部)からインスピレーションを得て創られたドレスのコレクションで、制作には3Dデジタル環境が使われている。
憧れのライフスタイルも、時代によって変化してゆくのだろう。
ゴッホが切り落とした左耳をバイオ技術で再現した作品も

ディムート・シュトレーベ 《シュガーベイブ》 2014年
ロボット工学やバイオ技術の進歩が、人間の身体能力を高めることや難病を克服することを可能にしつつある現在。それはとても素晴らしい未来だけど、一方で、人間の体はどこまで変えていいのかという倫理的な問題もある。
「セクション4 身体の拡張と倫理」では、身体にスポットを当てて作品を紹介。展示室内には実験室のような「バイオ・アトリエ」が登場する。アーティストのディムート・シュトレーベ氏の作品《シュガーベイブ》は、画家・ゴッホが自分で切り落としたとされる左耳を、現代のバイオ技術を使って親族のDNAをもとに忠実に再現した作品。
バイオ技術がアートの表現にも大きな可能性を与えていると、実感できるはず。
あたりまえを覆す。最新技術とともに生まれる新しい価値観

長谷川 愛《シェアード・ベイビー》2011年
「セクション5 変容する社会と人間」では、「人間」や「生命」、「幸福」といった言葉の定義をもう一度見つめなおすための問いかけを行う。
テクノロジーの発達に伴って人間や社会の可能性が広がったことで、これまでの「あたりまえ」を覆すような、新しい価値観も生まれている。現代美術家・長谷川愛氏の《シェアード・ベイビー》は、バイオ技術によって3人以上の親の遺伝子を継ぐ子どもを共有(シェア)する未来を予感させる作品。
このほか、会場では近未来の生活をイメージしたコーナーも設置。そう遠くない未来に、私たちが暮らしに取り入れるかもしれない、想像力を刺激するようなアイテムやシステムを体験できる。
最先端技術の先にある社会と人間の姿を考えながら、一足先に未来を見に行こう。
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