齋藤孝教授に学ぶ【親が繰り返し伝えたい】魔法の呪文とは?

第1回 齋藤孝先生がナビ!生きる力が育つ「ニーチェ」&「アドラー」の言葉
『情報7days ニュースキャスター』や『全力!脱力タイムズ』でおなじみの明治大学文学部教授・齋藤孝先生が、著書『自分で決められる人になる! 超訳こども「アドラーの言葉」』(KADOKAWA)を出版。アドラーの哲学を通し、親と子に伝えたい“勇気の心理学”をナビゲートする。

●“勇気、自信、リラックス”は魔法の呪文

アルフレッド・アドラーは、「どうしたら人は幸せに生きられるか」を生涯考え、研究し続けた心理学者。彼の言葉には、「自分を好きになるヒントがたくさん詰まっている」と齋藤先生が語る。

「“勇気、自信、リラックス”というのは、アドラーのなかの3つの呪文のようなもので、非常に大事な部分を要約した言葉。この、“勇気、自信、リラックス”というものを、親御さんが何かにつけて言葉にすることを心がける、そして子どもたち自身にも口にしてもらう…そうしていくうちに、子どものなかでも“魔法の呪文”となり、例え失敗しても落ち込んでも、自分自身の言葉で勇気づけられるようになっていくのではないでしょうか」(齋藤氏 以下同)

「勇気がある子どもは、新しいチャレンジを繰り返しながら、自分でどう生きるかを決めて幸せになれる…」これがアドラーからのメッセージ。親が“勇気づけ”をすることの大切さも説いている。

「大人になっても、勇気が出ないと行動が起こせませんし、結果も出ません。逆にチャレンジし続けていれば、いつか結果は出るので、親御さんたちには、ぜひ子どものうちにチャレンジすることの大事さを伝えて欲しい。子どもが何か新しいことにチャレンジしたら、“ナイストライ!”と声かけする。小さいうちから、“チャレンジすることにこそ意味があるんだ”ということを、繰り返し繰り返し教えてあげてください。親御さんのその一声で、子どもたちは、段々と踏み出す勇気が出てくるようになります」

齋藤孝

●時には、はみ出すパワーや勇気が必要

アドラーには、「恥ずかしがり屋は損をする」との教えも…。均一化され、はみ出すことを嫌うようになった現代の若者に相通じる言葉だが、これまで多くの学生を見てきた齋藤先生は、今何を感じているのか。

「今時の学生さんを見ていると、割とおとなしいので、あまり乱暴なことはしませんよね。先を見て、計算してしまうところがあるというか…。真面目なので、その分無理をしないし、非合理的なことをしない、そういう傾向があります。無茶をしないという意味では、ある程度整ってきているとも言えますが、時に、その整っているところからちょっとはみ出すパワーや勇気が必要なのかなと思います」

「自分のダメさを認める勇気も必要」と説くアドラー。「うちの子はネガティブで…」と嘆く親は多いが、親がネガティブを悪くとらえず、考え方のスイッチを変えるだけで、子どもはいい方向に成長できるという。

「劣等感は悪くないという考え方があります。劣等感を持つ子に対し、“この子は向上したいという気持ちがあるからこそ劣等感を抱くんだ”と親の方が考え方を変えて、それを子どもに伝えるといい方向に働きます。劣等感を持ちながら一生仕事を続ける人もいるので、自信を持っているかどうか、劣等感があるかないかというのは、あまり結果に関係ない。親はどうしても、“もっと自分に自信を持ちなさい”と言いたくなりますが、“私って、やっぱりだめかも…”と思いながら、少しずつ向上していくタイプもいます。自信過剰で努力せず、“まだ本気を出してないだけ”と言い訳する人よりはずっと知性的ですよね(笑)」

親は子の劣等感を否定せず、パワーに変えていけるように導くことが重要だという。

「ただし、劣等感を“劣等コンプレックス”という複雑なものにしてはいけません。“自分はダメな人間だから何もできない”というところまで思い込んでしまうと、本当に何もできなくなってしまいますが、“自分は劣っている、だからこそ頑張ろう!”となることは問題ありません。劣等感には2つの分かれ道があるので、どちらに転ぶかは、まさに親のアドバイス次第と言えます」

人生における大きな3つの課題は“友人、仕事、愛”。まずは友だちを作り、やがては仕事に就いて、愛情関係を結んでいくことが“幸せへの近道”だと語る齋藤先生。

「今の時代、これが当たり前とはなかなか言えないんですね。生涯未婚率は男性約23%、女性14%だと言われていますし、仕事にも必ずしも就けるわけではないので、そういう意味では、かなり困難な時代だと言えます。こういう、“人生の柱”というものに関しては、親が意識させてあげないと、子どもは何となく過ごしてしまう。当たり前のことのようですが、親が“友だちを作って、やがては仕事に就き、温かい家庭を築くんだよ”と、日々呪文のように唱えていると、自然と子どもは、“大人になったんだから仕事に就かなくちゃ!”とか、“友だちがいないとダメだな”とか、“適齢期がきたら結婚とかした方がいいんだろうな”と感じるようになります。子どもが当たり前のような“人間の柱”を築くには、そういった親側の背中を押す力、軽い圧力が必要だと思いますね。親の影響は軽視できないものだと僕は考えます」

何事も自分で決めて、自分の好きなようにやればいいという風潮が強い現代。だが、初心者マークの子どもたちにアドバイスするのは親の責任でもあるという。

「その先の人生を生きたことがない子どもたちに、経験のある人がアドバイスしてあげることが大切だと思います。“幸せな人生とは、もっとシンプルで簡単なんだよ”“そんなに複雑なことではなく、友人、仕事、愛の3本柱で考えると、幸せの法則がわかるよ”と伝えて下さい。そして、実際に経験を積み、今現在家庭を築いているお父さん、お母さんこそが、子どもたちにとっては一番身近な人生の先輩であることを忘れずに…。親が子どもたちに繰り返し伝えることは、意外と大切だと思います」

生涯“幸せ”について探求し続けたアドラーから、親子で学ぶことは実に多い。そしてそんなアドラーの言葉こそが、生きにくい世の中を駆け抜ける子どもたちの心を救い、やがては自己肯定感を育む訓練へと促してくれるのではないだろうか。

(取材・文/蓮池由美子)

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語彙力
齋藤孝
明治大学文学部教授
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。NHKEテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。NHKEテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。