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今年10年目の「赤ちゃんポスト」 開設の当事者が語る誕生の背景

開設から10年、「赤ちゃんポスト」を考える
さまざまな理由から親が育てられない子どもを匿名で預かる、通称「赤ちゃんポスト」。熊本市の慈恵病院に開設されてから今年で10年目を迎えます。

開設をめぐっては賛否両論が巻き起こりましたが、結果としてこれまでに120名を超える子どもの命が救われました。そもそも、赤ちゃんポストはなぜ熊本市で誕生したのでしょうか。開設当初から運営に尽力してきた助産師の田尻由貴子さんに聞きました。

●「こうのとりのゆりかご」はドイツの赤ちゃんポストがお手本

赤ちゃんポスト、正式には「こうのとりのゆりかご」が、熊本市慈恵病院で開設された背景には、1982年に来日したマザー・テレサの言葉があったと言います。

「それは『日本は美しい国だが、中絶が多く、心の貧しい国だ』というものです。この指摘がきっかけとなり、妊婦と胎児の命について考える団体『生命尊重センター』が設立されました。全国で啓発活動を展開するなかで、具体的なサポート体制を整えようと、2002年に慈恵病院で24時間体制の電話相談窓口が設置されることになったんです」(田尻さん、以下同)

その後、世界に先駆けて2000年にドイツで第一号の「赤ちゃんポスト」が設立され、2004年5月に生命尊重センターの誘いを受け、慈恵病院の医師と田尻さんと同センターの有志で視察。その先進的な取り組みに驚いたと当時を振り返ります。

「ドイツでは赤ちゃんが森の中やごみ箱に捨てられるケースが後を絶たなかったそうです。そこで、『命に対する権利は胎児にも及ぶ』という法律に基づき、生まれてくる子どもの尊厳を守るべく、赤ちゃんポストが開設されました。しかし、日本では、そうした法律がないので、行政主導では親が匿名で赤ちゃんを預けることはできません。そこで、周囲に妊娠を打ち明けられずに悩みを抱え込んでいる女性たちを救おうと、民間病院の慈恵病院でドイツにならって赤ちゃんポストを作ることになったのです」

今年10年目の「赤ちゃんポスト」、当事者が語る開設の背景とは?

●最優先すべきは宝物である“子どもの命”

「こうのとりのゆりかご」に預けられる子どもの背景はさまざま。若年層での妊娠や不倫を経た出産、子どもの障がいを受け入れられないなど、一つとして同じケースはないと言います。共通しているのは、いわゆる“普通の妊娠・出産”ではない状況で誕生したということ。

預けられた子どもは、親が育てられない「ネグレクト」を受けているということになり、最初に乳児院で一時保護され、3歳になったら児童養護施設に移されます。

「母親の育児放棄を助長する」「捨て子が増えるだけだ」と批判が絶えなかった赤ちゃんポストですが、開設10年で預けられる子どもの数は減少傾向にあるそうです。

「現状、赤ちゃんポストのような仕組みは、慈恵病院にしかありませんが、実際に預けられる子どもの多くは東京や大阪といった都市部からやってきます。熊本県内のケースとなると例年ごく僅かですので、育児放棄を助長することにはなっていないと言えます。たとえそうであったとしても、血の繋がりだけではなく、すべての子どもは国の宝として育てるべきだと考えています」

「こうのとりのゆりかご」に預けられて、養子縁組をした子どもと数年を経て面会をしたこともあるという田尻さん。心身ともに健康に育っている姿を見て、あらためて赤ちゃんポストの必要性を痛感したと語ります。

「ただ、本当は赤ちゃんポストがない社会が理想だと思っています。そのためにも、孤独になりがちな妊婦さんたちを支えることができる相談窓口も充実させ、支援を広げることが必要だと思います」

10年間で120人以上の子どもを救った「こうのとりのゆりかご」。その反面、いまだ乳児の遺棄事件がゼロになることはありません。現在、赤ちゃんポストは全国で慈恵病院だけの実施ですが、子どもを育てるにあたって困難を抱え名乗ることもできない母親に寄り添う支援は、どこの地域でも求められているのではないでしょうか。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)

お話をお聞きした人

田尻由貴子
田尻由貴子
スタディライフ熊本
45 年の看護職としての経験を活かし、2000年より医療法人聖粒会慈恵病院看護部長の任と共に、2007 年に開設された「こうのとりのゆりかご」及び「SOS相談窓口」運営の中心的役割を果たす。2015 年4月から「スタディライフ熊本(生涯学習支援事務所)特別顧問」に就任し、引き続き、望まない妊娠や子育てで悩む女性やその家族に寄り添う24 時間フリーダイヤル相談窓口を開設。
45 年の看護職としての経験を活かし、2000年より医療法人聖粒会慈恵病院看護部長の任と共に、2007 年に開設された「こうのとりのゆりかご」及び「SOS相談窓口」運営の中心的役割を果たす。2015 年4月から「スタディライフ熊本(生涯学習支援事務所)特別顧問」に就任し、引き続き、望まない妊娠や子育てで悩む女性やその家族に寄り添う24 時間フリーダイヤル相談窓口を開設。

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親が育てられない赤ちゃんを匿名で預けられる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」が日本で最初に開設されてから十年がたった。ようやく二つ目が設置されようかという動きがあったものの、いまだ実現には至っていない。妊娠や子育てに悩んでいる人の相談活動を続ける著者は、ひとりでも多くの赤ちゃんの「命」の誕生を願ってその存在意義を訴え続ける。かけがえのない「命」のバトンをつなぐためにできることは何か。いま、あらためて議論の高まりを期待したい。
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はい。赤ちゃん相談室、田尻です。:こうのとりのゆりかご・24時間SOS赤ちゃん電話相談室の現場 (シリーズ・福祉と医療の現場から)
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2007年5月、「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」の運用が熊本ではじまった。開設からの八年間この現場にいて考えたことを、若い人たちに伝えたいという思いから本書は生まれた。看護師・助産師・保健師としての長年の経験をふまえ、「かけがえのない生命」をつなぐということについてわかりやすく語りかける。妊娠・子育てに悩む人をはじめ、その周りの多くの人たちが考えるきっかけとしてほしい。
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日本初となる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置・運営し,母と子の命を見つめ続けてきた慈恵病院理事長自身の回想から,その誕生の背景に迫る。さらには,先行するドイツでの実態レポート,匿名・内密出産について議論し,日本での母子支援のあり方を問う。緊急下の女性と子どもをめぐる好評書籍の第2弾。
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