メディア個別 川上未映子 Vol.1 『注目作家に最新作やおすすめの本などを聞く』 | 気になる“あの人”のインタビュー | ママの知りたいが集まるアンテナ「ママテナ」
川上未映子 

川上未映子 Vol.1 『注目作家に最新作やおすすめの本などを聞く』
~気になる“あの人”のインタビュー~

すべてが、自身の体験をもとに書かれた「本当のこと」。芥川賞作家の川上未映子さんが妊娠・出産・育児について綴ったエッセイ『きみは赤ちゃん』(文藝春秋)が上梓され、大好評。赤ちゃんにかかわる人へのメッセージとおススメ本を、ご本人に聞いてみましょう。

「わたしと、わたしの赤ちゃん」という関係は、他ではあり得ないスペシャルなものでした。

――刊行以来、読者からの反響が大きい同書。なぜそこまで「伝わる」ものに?

川上未映子 (以下、川上)妊娠しているときは体がどんどん変わっていって、それに合わせて精神も不安定になるし、産後はいきなり2時間睡眠とかになって、体が本当につらいし、いつも朦朧としていますよね。あらためて書いたのは少し時間が経ってからだけど、つねに、いま心身に起こっていることを書き留めてそれをもとにしたので、そのムードが伝わっているような気がします。メモや日記をあわせると、ぜんぶで原稿用紙換算千枚くらい書いたんですけれど、たぶん、そういう満身創痍感、リアルタイムに、共感してくださってるんだなあと思います。

川上未映子

――赤ん坊への溺愛ではなく、「わたし」の心情が叙述の中心なのは特徴的。『きみは赤ちゃん』とのタイトルもどこか不思議です。

川上この本は、赤ん坊が着床してまだ黒い点でしかなかったときから最後は彼が自分で立ちあがって、わたしから離れていくところで終わります。「わたしの赤ちゃん」といえたのは、1年しかありませんでした。でも、短いながらも築けた「わたしと、わたしの赤ちゃん」という関係は、他ではあり得ないスペシャルなものでした。まず、記憶と言葉をもたない人間にはじめて会えましたし、それだけでも感動的でした。それがただ自分のそばに存在していた1年間は、まさにギフトだったと思います。そんな特別な時間が1年間だけあって、わたしとわたしの赤ん坊は他人になっていく。一生に一度あるかないかの奇跡的な1年間でした。そんなことを、『きみは赤ちゃん』というタイトルに込めたんです。

生んだ瞬間にすぐ、全面的に母親になれるということはない。

――本書を読むと、初めて気づきます。男性は子が産まれたからといって、自動的に父になるのが難しいものだけど、どうやら母親だってそうなのかと。

川上もちろんそうですよ! 生んだ瞬間にすぐ、全面的に母親になれるということはないですよ。出産というものすごい一大事があっただけで、基本的には「昨日のわたし」とおなじです。けれど、母親には、生んだらすぐに授乳するとか、やらなきゃいけないことがたくさんある。そういう具体的な行動の一つひとつが、母親を「母親的役割に従事する人」たらしめていくんでしょう。でもやっぱり、生んだ瞬間から──もちろん感動はありますし、胸の底から、これまで体験したことのない「かわいい……」という思いはあふれてきましたが、「母親らしい慈しみ」みたいなものがあふれてきたかといったら、そんなことはなかった。8割は外圧による変化です。

川上未映子

――子育ての真っ最中である現在、母親としての理想像は?

川上あらゆる意味で、負担にならない母親になりたい、っていうことぐらいでしょうか。それが子どもにしてあげられる唯一のこと……というより、責任に近いような感じがする。 「毒親」という言葉がありますよね。子どもに対して過度に依存したり支配しようとして結果、よい関係を築けないでいる親。気をつけないと、そういうところに陥りがちだというのは、どの親にもいえることじゃないですか。人の欲望って自分が思わないかたちで出たりするし、知らないあいだに野放しになってることもあるし。 健全な──って、毒親であれどんな親であれ、自分たちはそれなりに健全だと思ってるんだろうけれど(笑)、でもまあ、良好とまではいえなくても、ひどくない親子の関係ってどんなものなんだろうと考えていくと、経済的にも感情面でも、できるだけ負担にならない親でありたいというところに落ち着きますね。そのためには、具体的な距離が必要だと思っています。

著者プロフィール

この記事へのご意見はこちら
PAGETOP