80点を目指すことが、確実に仕事を成し遂げるコツ〜森もり子×さわぐちけいすけ対談 前編〜
この記事は「アリシー」から提供を受けて掲載しています

80点を目指すことが、確実に仕事を成し遂げるコツ〜森もり子×さわぐちけいすけ対談 前編〜

第11回 アリシー作家連載陣企画
アリシーで好評のマンガ連載「大人のズル休み」の作者・森もり子さんや、「月並さんはわかりやすい」の作者・さわぐちけいすけさんは、今年で30歳になる同年代。LINEスタンプやマンガエッセイなど、幅広いジャンルで活躍されているお二人ですが、仕事をする上で大切にしていることはどんなことなのでしょうか? 対談前編は、ネタ集めからお金の話まで、それぞれの仕事観についてざっくばらんに語っていただきました。

■ジャンルを超越した読書がネタのきっかけになる

▲左から森もり子さん、さわぐちけいすけさん
——アリシーのマンガ連載陣を代表するお二人ですが、お互いの作品にどんな印象を抱いていたのか聞かせてください。

さわぐちけいすけ(以下、さわぐち):私の方が後からアリシーに参加させて頂いたんですが、描き始める前に森さんの「大人のズル休み」を読んで、「ああ、これは敵わない」と思って一度断ろうと思ったんですよ。

森もり子(以下、森):本当ですか?

さわぐち:はい。作中ではそんなに場面転換はないんですよね。主人公は家と職場を行き来しているくらいだし、キャラクター同士の会話もそんなに多いわけでもないし。ストーリーも、基本的に主人公の心にちょっとした考えが浮かんで、それを行動するとかやめるとか。そんな小さな世界の話なのに、ここまで面白いってすごいな! と。
森:ありがとうございます。僕もさわぐちさんの「月並さんはわかりやすい」、すごく好きです。主人公たちがヒーローで、職場にはびこる敵を倒すというストーリーなんですけど、「敵を倒して職場を良くしよう!」というほどには、気合いが入っていないのがいいですよね。よくわからない仕事を請け負ってしまったキャラクターたちが淡々とこなしている、みたいな雰囲気が面白い。

——お互いに好感触ですね。お二人は、作品のネタってどこから集めてくるんですか?

さわぐち:いろんな本を読んだ結果がマンガになっている感じです。基本的には自分の発想には頼っていないですね、最初からネタ切れみたいな状態なので。

森:普段どんな本を読むんですか?

さわぐち:一番好きなのはミステリーですが、幅広く読もうと思っていて。哲学、物理、数学なんかの分野も、理解できないながらも読むようにしています。最近読んだのが『「おいしさ」の錯覚』という本なんですけど、食べ物が五感にどう影響するかとか、おいしさを科学的に数値化するとどうなるか、というのがテーマになっているんです。直接マンガの設定に繋がるわけじゃないんですけど、情報としていろいろな引き出しがあった方がいいかな、と。

■成長させてあげないと、主人公がかわいそう

森:僕は、普段の生活の中から拾うことが多いですね。会話をしている時に生じるちょっとしたズレの面白さをネタにしたり。あとは、映画やバラエティ番組を見ている時に、もし自分だったらどう反応するか? ということをいつも考えています。それで、面白いと感じたことはすぐiPhoneにメモをするようにして。

さわぐち:僕もちょっとしたことをiPhoneにメモしていますね。それを後から見直して、「このセリフを使いたいから話をつくろう」という感じです。

森:ああ、同じですね。僕もセリフありきでシチュエーションを設定します。そう考えると、感覚的というよりロジカルに描いているのかな。

さわぐち:そうかもしれないですね。作曲で例えると、サビが決まってから出だしと終わり方を決めて、それ以外はあまり力を注がずにつくる、というイメージ。正直に言うと、僕、マンガを通して「伝えたいこと」ってそんなになくて……。でもそれだと読者が戸惑ってしまうので、言いたいことを見つけて描いているようなところがあります。

——セリフありきでストーリーをつくられるんですね。マンガの描き方としてはそれが王道なんでしょうか。

森:少年マンガだと、キャラクターありきでストーリーを考えるケースが多いんじゃないかな。

さわぐち:理論的には、キャラクターありきの方が長編を描きやすいんですよね。キャラクターをメインに描くということは、その人間性を描くということなので、いくらでも描き続けられるんですよ。

森:キャラクターを成長させなくても続けられますからね。コナンはいつまでも少年のままだし、ルフィはいつまでも「海賊王になる」と言っていて。とはいえ、僕の「大人のズル休み」は毎回1話完結なので、続けようと思えば永遠に続けられると思うんですよね。適当に色々な出来事を起こしてしまえばいいので。ただそれじゃ、いつまでも迷ったままの主人公がかわいそうだな、と思ったりもして。

■100点を目指すより、着実に80点を取りに行く

——キャラクターへの愛情が伺えます。お二人が仕事をするにあたって、大切にしていることって何でしょうか?

さわぐち:頼まれたことに忠実に応えることですね。基本的に僕主導で「こうしたい」ということはあまりないです。

森:僕はマンガ家になろうとしてなったというより、好きなことを発信しているうちに運良く仕事が来て今のようになったので……。いただいた仕事に対して「できそうならやる」あるいは「面白そうだったらやる」という姿勢です。

さわぐち:あとは、お金?

森:お金は大切ですね。商業的な広告マンガだと、一度原稿料が入ってきて終わりじゃないですか。でもマンガ雑誌の連載が持てれば、将来的にアニメ化されて大金持ちになれるかもしれない。そんなことを夢見ています。

さわぐち:夢がありますね。僕は現実的な話になりますが、原稿料の話を最初にしてくれない相手とは仕事をしないことにしています。やっぱりそこは一つの目安として大事だと思うので。あとは、声をかけてくれた人には必ず会うようにしていますね。会ってみて楽しかったり、自分の話をちゃんと聞き入れてくれそうだったりしたら、お金よりも相性を優先することもあるかな。

——お金だけではないけれど、やはりお金は避けては通れない、と。モチベーションの面はいかがですか? キープし続けるのって、結構大変じゃないですか?

さわぐち:そうですね。最近は無理に描き込まず読みやすさを重視して、描くスピードと内容のバランスを考えています。また仕事とは別で、絵の勉強に重きを置くようになりました。

森:勉強で絵を描いているんですか?

さわぐち:そうなんです。最近、大学教授から直接美術解剖学の授業を受ける機会があったのですが、すごくテンションが上がるんですよね。今はそっちが楽しい分、仕事は本気になりすぎないようにセーブしているかもしれません。

森:その感覚はわかる。僕も仕事は80点を目指せば十分かなと思っています。100点を目指して仕事をしていると、いつの間にか120点を求められるようになっちゃうんですよ。そこを目指すより、安定的に80点の原稿を締め切り前にきちんと納品することが重要かな、と思います。クライアントをギリギリまで待たせるようなことはあまりしたくない。

さわぐち:意外と15点くらいでも、OKが出ちゃったりするんですよね(笑)。必ずしも自分がいいと思ったものが喜ばれるとは限らない。自分が「これだ」と思った時点で自分の好みに偏っているので、仕事としてはちょっとずれる気がするし。あまり思い入れず、求められたものに応えるという作業が僕にとっては楽しいんです。

〜後編へ続く〜

(波多野友子+アリシー編集部)
アリシー 編集部
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アリシー編集部は、30代を目前に漠然とした不安を抱くも、なかなか一歩前に踏み出せない女性(=いもむし女子)に向けて、いつもの日常がちょっと豊かになるようなコンテンツを提案しています。きっと自分らしい生き方を見つけるきっかけになるかも。
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女性向けに情報を発信するWebメディア「アリシー」は、2019年6月13日をもってサービスを終了しました。グルメやファッション、マンガ・エッセイなどアリシーの一部コンテンツは、姉妹サイト「ママテナ」に移管しております。引き続きお楽しみください。
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